2012年9月12日水曜日

時評 「マストドンは蘇り、進化を始めた」

時評
「マストドンは蘇り、進化を始めた」(『労働情報』847号掲載)
   喜多幡 佳秀

 おおさか社会フォーラム実行委員会でジョン・ニコルス著「市民蜂起」の日本語版を編集・出版した(かもがわ出版、1800円)。2011年2-3月のウィスコンシンの闘いの優れた記録である。
 この本の第6章はアメリカの労働運動の復活の兆しについて述べている。ウォーカー知事による公務員の団体交渉権の剥奪の攻撃に対して、奇跡とも言えるような闘いが起こった。アメリカの労働運動は1980年代初頭のレーガン政権時代の激しい組合攻撃以降衰退が続いてきた。それはマストドン(数千年前にアメリカ大陸に生息していたと言われるゾウに似た哺乳動物)が「死への旅路を這いずりまわっている」ようだと形容された。しかし、「マストドンは死ななかった。衰弱し、痛々しいとさえ思えるが、それでも咆哮を上げ続けている。そうこうするうちに二〇一一年に、奇妙なことが起こった。多くの人々が、自分たちはマストドンを必要としているということに気づいたのだ。マストドンは進化を始めた」。

 世界社会フォーラムが来年3月にチュニジアで開催される。「アラブの春」の発祥地である。チュニジア革命では、労働組合が大きな役割を果たしたし、世界社会フォーラムの開催にあたっても、中心的な役割を担っている。ギリシャ、スペインをはじめヨーロッパ各地の闘いでは、「財政危機」を利用した公務員攻撃に対して、公務員だけでなく民間の労働者、失業者、年金生活者、自営業者たちが共闘している。ここでも「多くの人々が、自分たちはマストドンを必要としているということに気づいた」のだろう。

 9月15-16日に開催される「おおさか社会フォーラム2012」にはウィスコンシンからのゲストのほかに、韓国、フィリピン、グァム、バングラデシュからもさまざまな分野の活動家が参加する。バングラデシュから参加するナズマ・アクテルさんは、衣料産業の労働者を支援しているNGOと、女性を中心とする労働組合のリーダーで、児童労働の経験もある。急速に発展するバングラデシュの衣料産業は、グローバル化の中での「底辺に向けた競走」の象徴となっている。ナズマさんたちは、政党に系列化された組合や、男性が支配する組合ではなく、衣料労働者の圧倒的多数を占める女性たちが自分たちでリーダーとなり、リーダーを育てていくことに力を注いでいる。「マストドンの進化」とはそういうことなのだろう。

 さて、日本では・・・
 原発反対の行動やオスプレイ配備反対の運動は、ウィスコンシンや「アラブの春」に通じるところがある。しかし、マストドンが目覚める気配はあるのだろうか?
 橋下・維新の会の旋風が吹き荒れている。彼らは公務員を攻撃することで、マストドンに最後の一撃を与えようとしている。
 ウィスコンシンではウォーカーがマストドンを目覚めさせた。橋下・維新もそういう役割を持って登場したのかもしれない。いや、そのようにしなければならない。

『市民蜂起: ウォール街占拠前夜のウィスコンシン2011』
著者: ジョン・ニコスル
日本語版編集:「おおさか社会フォーラム実行委員会」
かもがわ出版 2012年09月
 





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